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微生物の話黄色ブドウ球菌食中毒について2023-07-31

 食中毒を防止するためには「しっかりと加熱することが大切!」です。しかし、食中毒の中には、加熱だけでは防げないものも存在します。その1つが黄色ブドウ球菌による食中毒です。今回は黄色ブドウ球菌食中毒を取り上げてみたいと思います。

1.黄色ブドウ球菌とは?
 ブドウ球菌属(約60種)は通常、人や動物の皮膚、鼻腔などに存在しています。黄色ブドウ球菌はその中の1つで、傷口や手荒れ部分、また、約40〜50%の健常な人の鼻腔から分離されるとされています。なお、寒天培地上で培養すると黄色く発育するため「黄色」、顕微鏡で観察するとブドウの房状に見えることから「ブドウ球菌」と名付けられています。黄色ブドウ球菌が食品中で増殖すると「エンテロトキシン」という毒素を産生し、この毒素が食中毒の原因となります。

2.なぜ食材を十分に加熱しても食中毒を防げないのですか?
 黄色ブドウ球菌は、一般的な調理の過程で熱により死滅します。しかし、この細菌の産生する毒素「エンテロトキシン」は、100℃ 30分の加熱でも失活しないことが知られており、食材がエンテロトキシンにより汚染していた場合、通常の調理ではこの毒素による食中毒は防げません。

3.黄色ブドウ球菌食中毒の特徴を教えてください
 食べてから平均約3時間後に発症します。主な症状は、嘔吐・腹痛・下痢など他の細菌性食中毒と同様ですが、症状が現れるまでの時間が極めて短いのが特徴です。また、原因となる食品は多岐にわたり、2000年に起こった本菌による大規模食中毒事例では、原因が加工乳であったため、患者は成人・子供・高齢者など様々で、1万4千人を超える患者が発生しました。

4.黄色ブドウ球菌食中毒を予防するにはどうしたらいいですか?
 食材が一旦エンテロトキシンで汚染されると、取り除くのは極めて困難です。そのため、食材に黄色ブドウ球菌を付着させない(手洗いをしっかり行う、マスク、手袋、帽子などを適切に使用する、手指に傷のある人は調理に従事しない)ことが最も重要です。また、菌が増殖しエンテロトキシンを産生する環境・時間を与えないことも効果的です。食材の温度管理は厳重に行い、調理後はなるべく早めに食べるよう心掛けましょう。









微生物の話腸内細菌検査って何?2023-05-31

排泄された便を検査し、腸管内に食中毒菌(赤痢菌、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌等)やノロウイルスがいないかを調べることができます。

●なぜ必要なの?
 不顕性感染者を見つけることが目的です。不顕性感染者とは、体内に食中毒菌等を保有しているも関わらず自覚症状のない人のことです。症状がないため、気づかぬうちに不顕性感染者の手指を介して、食品を食中毒菌やノロウイルスに汚染させ、提供された食事を食べた人が食中毒を発症してしまう可能性があります。

●「陽性」になったらどうなるの?
 陽性となった菌の分類によって対応が異なります。
サルモネラ属菌(チフス、パラチフス以外)が陽性になった場合、調理業務に携わらず医療機関を受診し、治療を受けます。再度検査をして陰性を確認後、職場復帰となります(※1)。
 赤痢、チフス、パラチフス、腸管出血性大腸菌が陽性になった場合は、調理業務に携わらず自宅待機となります。医療機関を受診し、治療を受けます。赤痢、チフス、パラチフス、腸管出血性大腸菌は3類感染症に指定されているため保健所への届出が必要です。受診した医療機関の医者から保健所へ報告をしますが、本人からも保健所へ連絡し、指示を受けましょう。治療後に再度検査をして陰性を確認後、職場復帰となります(※1)。
食中毒菌は通常数週間かけて自然に排出されますが、まれに腸管内に長期間留まってしまうこともありますので、陽性と確認されたら、医療機関へかかるようにしましょう。
※1: 施設、職場によっては複数回の陰性判定確認後の復帰となる場合もあります。

●定期的に検査する理由は?
 一度検査して「陰性」ならば、安心ということではありません。食事や、日常生活で知らないうちに食中毒菌に感染している可能性が常にあります。そのため定期的な
腸内細菌検査が重要です。
大量調理施設衛生管理マニュアル等国の定めるガイドラインやHACCPに沿った衛生管理で腸内細菌検査が規定されている場合、また、飲食店や食品を扱う事業所の衛生管理においても、腸内細菌検査は重要です。定期的に検査を受けるようにしましょう。

当センターでは定期的な検便検査やノロウイルス検査の相談、質問をお受け致しております。御依頼、御相談等がありましたらお気軽にご連絡ください。









水の話レジオネラ属菌について2023-03-31

 空調用冷却塔水、循環式浴槽、あるいは給湯系の貯湯槽などの施設は、レジオネラ属菌の繁殖に適した環境条件(水の滞留時間が長く有機物がある、粘性物質や生物膜などレジオネラ属菌の繁殖を助ける微生物群集が発生しやすい、暖かい水温等)が整いやすいため、レジオネラ対策・検査をお奨めしております。特に循環式浴槽を使用している公衆浴場、介護施設等については厚生労働省発布「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルについて」等を参照した上で、管理を行うことを奨めています。

レジオネラ症は重大な事故になりうる感染症です!
レジオネラ属菌は、土壌や水環境にも存在する菌です。しかし、水が循環し、エアロゾルを発生させる人工環境(噴水等の水景施設、ビル屋上に立つ冷却塔、ジャグジー、加湿器等)や循環水を利用した浴場等のある施設が多くなっていることなどが感染する機会を増やしているものと考えられています。
レジオネラ属菌が原因で起こる感染症であるレジオネラ症は、数日で自然に治る場合が多いポンティアック熱と、急激に重症になり、死亡事例もあるレジオネラ肺炎に分けられます。レジオネラ肺炎は、乳幼児や高齢者、疾病などにより抵抗力が低下している人や、手術後等で体力が低下している人などが発病しやすいといわれています。

参照:福岡県保健環境研究所:レジオネラ症
http://www.fihes.pref.fukuoka.jp/~byouri/Legionella/

浴槽等におけるレジオネラ属菌の繁殖を防ぐ方法は?
循環式浴槽あるいは給湯系の貯湯槽などでは、なるべく短期間(風呂などは可能であれば毎日)での換水、浴槽等に付着しやすいバイオフィルム(ぬめり)の除去や配管並びにフィルターなどの定期的な清掃、貯湯槽などはレジオネラ属菌が繁殖できない温度(60℃以上)を維持する、塩素系薬剤による定期的な消毒処理など、適切な管理を行ってこのような環境条件を与えないようにすることがレジオネラ属菌の繁殖を防ぐのに効果的です。
なお、多くの自治体では、公衆浴場や旅館業、介護施設等で貯湯槽を使用する場合やろ過器等を使用して浴槽水を循環させる時は、定期的な清掃や洗浄、消毒を行うように条例等で定めています。また、循環使用する浴槽水の遊離残留塩素濃度の維持並びに定期的なレジオネラ属菌検査を行うことを定めています。

当センターでは公衆浴場や旅館、老人ホームなどの浴槽施設におけるレジオネラ症の蔓延を防止するための浴槽水検査を行っています。
ご相談やご質問等がありましたらお問い合わせ下さい。









食品の話二枚貝(アサリ・ハマグリ・カキなど)の貝毒について2023-03-01

 二枚貝の毒化は渦鞭毛藻など海水中の有毒プランクトンを捕食した二枚貝が毒を体内に蓄えることによって起こります。毒化した貝を食べる事で中毒症状が起こることがあります。これを一般的には「貝にあたる」と言います。この毒素は加熱により無毒化されることはありませんし、蓄積により貝の食味が変化することもありません。
今回は、(公財)北九州生活科学センターが検査を行っている「貝毒」について紹介します。

1.貝毒による中毒とは?
 毒化した貝を食べることで神経系や消化器系に起こる中毒症状のことです。
 毒性をもつプランクトンは熱帯海域から温帯海域まで広く分布しており、日本でも北海道から沖縄までの各地で中毒が発生したことがあります。二枚貝だけでなくこれらのプランクトンを餌にする動物は全て毒化する危険性をはらんでいます。そのため国では定期的に海水中のプランクトンや貝の検査を行い、貝に含まれる毒の量を検査し安全を確かめています。麻痺性貝毒の規制値は可食部1グラムあたり4マウスユニット、下痢性貝毒の規制値は可食部1kgあたり0.16mgオカダ酸当量と定められています。いずれの貝毒も規制値を超えて検出された場合は出荷停止措置が執られます。この措置は、貝自身の代謝により貝毒がなくなったことが検査で確認されれば解除されます。

2.主な症状
 麻痺性貝毒中毒症状は、フグ毒の中毒症状に類似しており、食後30分程度から軽度の麻痺が始まり、次第に全身に広がります。重症の場合には呼吸麻痺を起こして死に至る事もあります。
 下痢性貝毒中毒症状は、消化器系の障害で、激しい下痢、吐き気、嘔吐などの症状が食後30分から4時間以内の短時間で起こります。通常は3日以内に回復することが多く、後遺症はなく、死亡例もありません。

3.分析方法
 麻痺性貝毒は「食品衛生検査指針、理化学編」に従い、マウス毒性試験法で定量分析しています。
 下痢性貝毒は、国際的に機器分析法が導入されています。当センターでも液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析計を用いた機器分析でオカダ酸群を定量分析しています。









微生物の話カンピロバクター食中毒 鶏肉には要注意!2022-12-28

毎年、福岡県ではカンピロバクター食中毒が多発しています。今回はカンピロバクター食中毒について取り上げてみたいと思います。

Q1.カンピロバクターとは何ですか?
A1.家畜や家禽の腸管に感染し、菌体が曲がったりねじれていることから「らせん菌」と総称される細菌のひとつです。カンピロバクター属菌にはいくつか種類がありますが、食中毒を引き起こす菌種にはカンピロバクター・ジェジュニとカンピロバクター・コリの2種が知られています。我が国では鶏肉の汚染が問題であり、市販されている鶏肉の半分以上がカンピロバクターに汚染しているという報告もあります。十分に加熱すれば菌を死滅させることが出来るにもかかわらず、加熱不十分な調理による食中毒が後を絶ちません。

Q2.「新鮮だったら生で食べても安全」ではないのですか?
A2.残念ながら誤りです。カンピロバクター食中毒は、数百個という少量の菌でも発症しますので、市販されている鶏肉の多くがカンピロバクターに汚染されている(と推定される※1現状では、鮮度に関係なくカンピロバクター食中毒には注意する必要があるでしょう。

Q3.カンピロバクター食中毒の特徴を教えてください
A3.食べてから1〜7日後に発症します。主な症状は、腹痛・下痢・発熱など他の細菌性食中毒と同様ですが、数週間後まれに合併症として、手足の麻痺や呼吸困難を起こすことが知られています。また、10〜20代の患者が多いことが特徴としてあげられます。

Q4.カンピロバクター食中毒を予防するにはどうしたらいいですか? 
A4.何より、よく加熱して食べることが最も効果的です。原因の殆どが鶏肉であることから、中心部までよく火が通る調理法を心がけ(目安としては中心部が75℃で1分以上)また生肉を扱う調理器具はこまめに消毒し、日頃から食中毒防止に十分配慮することが必要です。

※1 参照:厚生労働省ウェブサイト「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)